よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【こわい話】キッチンの主

これは私が20歳の時に体験した話しである。

その年、とある飲食店でバイトをしていた。
いくらつてがあったとはいえ、本来短期バイトができない店でバイトが出来ていたのかは自分でも謎である。


初めて2日目。キッチンの一角にどうも気配があることに気が付いた。
キッチンからカウンターへ出る通路の脇に"それ"がいるのである。
おまけにただでさえ涼しい店内なのに、"それ"の居場所に立つと体感温度は3℃ほど下がって寒気がするという感じである。

困ったことにその場所はバイトの人がスタンバイするポジション……
こちらは短期のバイトだし、ほかのバイトの人は気が付いていない様子だったため、"それ"について尋ねようとも考えなかった。

とはいえ"それ"は人間に対してどうこうすることはなかった。
キッチンで作業していれば気配を現すことはあった。
"それ"の位置に立つと寒気がする。
それ以上のことはなかったのだ……

*****

私が短期で働いた数年後、その飲食店は創業以来の建物を壊し、その場所で新規に店を建てた。
以前の店より面積も広がり堅牢な印象のお店になった。

ただ、ちょっと作りが変わっていた。
直方体の一部が凹んだようになっているのである。
その凹んだ場所は、"それ"がいたキッチンがあった場所……

このお店は現在でも営業している。さらに規模が拡大したため建て増しを行っている。
そのため現在では凹んだ部分の不自然さは分かりにくくなっている