よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【こわい話】死神 その1

これは母から聞いた話である


母方の祖母はがんが見つかり入院した。病状は相当進行していた。
40年ほど前にがんと診断された場合、病状が進行していなければ切除はできた。しかし進行してしまった場合には入院が延びる一方だった。抗がん剤はもちろんない。あったとしても最先端の医療だったため、一般の人が受けられるものではなかった。

母方祖母が入院して半年ほど経ったある日。介助に来た母にこう話した。
「死神がやって来たんだ」
何を言っているのだ、と母は思ったという。が、話を聞かないと怒る気性の持ち主だったという母方祖母。母は話に付き合うこととした。
「あいつがやって来たのは入院して1か月経ったころだ。真っ黒い人型で顔も何にも見えたもんじゃない。その時直感で『死神だ』と思ったね。足元だったからけとばしてやったさ。」
「だけど奴らもしつこくてねえ、月ごとに1人ずつ増えていくのさ。4人目が来た時までは何とか蹴飛ばせられた。」
「ただ先月はねえ……5人目を蹴飛ばすことができなかったのよ。今月は今のところ来てないけれどどうなんだろうねえ」

母はその話を聞いた時、「母方祖母は自分の病状を知っているのでは?」と感じ、そして「まずはしっかり寝るように」と答えたという。
40年ほど前、がん患者にはがんであるという告知はしないのが常識であった。

それから1月後母方祖母は他界した。享年は59歳であった。

*

私は当時3歳になったころであり、母方祖母を看取ったのをおぼろげに覚えている程度である。この話を聞いたのは私が中学生になってからである。

母方祖母の享年に自分自身が近づくにつれ思うことがある。
もし、それが死神だというのなら、なぜ1人では持っていけない人間の前に現れるのだろう?
5人がかりでないと連れていけないような人間は、病気に負けたと言えるのだろうか?
そもそも本当にそれは死神だったのだろうか?

余談:母方祖母のこわい話はこちらにもあります
kogetya.hatenablog.com