よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【こわい話】残された家

これは実家の近くにある、ある家にまつわる話である
※なお、この家に関するお問い合わせには一切応じません

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中里さん(仮名)にある話がやって来た
「お宅の近所にある家を買わないか」という話である
その家がどういういきさつがあり、なぜ自分の所に話が来たのかは中里さんもよーーく分かっていた

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その家は古くから住んでいる家族が、以前の家を取り壊して新築したものだった。二世帯住宅で事業所も備えついている立派な家だ
が、前触れもなく事業は停止し倒産。
一家は身一つで家を去った。朝、事業所の戸に破産管財人の名がある張り紙があり、それを見て誰もが初めて事情を知ったのだった

結局、家財道具はおろか、毎日散歩していた3頭の大型犬も残された
最初の1月はそのまま。その2月後には大型犬たちが、次いで中の家財が引き取られていった

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つまりその家を売りに来たのは、前の住人の破産管財人であり、その家の周囲で不動産を購入できる財力がある人は中里さんしかいないのだ
中里さんはいい顔をしなかった。ゲンの良くない物件であるうえ、その土地建物を利用する事情もなかったからだ
しかし意外にも、中里さんの息子である健一さん(仮名)がその物件に興味を持った
健一さんは奥さんの美枝子さん(仮名)と一緒に内覧に行った。内覧が終わった後、健一さん美枝子さん夫妻は中里さんの家に顔を出した。中里さんの奥さんと美枝子さんだけになったとき、美枝子さんはこう打ち明けたという
「どうもあの家には『住人』がいるんです…とりわけ仏間の所に……」

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美枝子さんはこのような話をしたという

そもそも美枝子さんは内覧にも気が乗らなかった。事情はおおよそ把握していたからである。
破産管財人が玄関を開けたとたん、美枝子さんは「気配」を感じたという
先入観があるから感じるのだ。美枝子さんはそう考えることにした。が、「気配」はきちんと付いてきていたという
美枝子さんにとって決定打となったのは、仏間だったところにやって来た時だった。
「気配」は急に濃くなり、複数になり、大きくなった
それはあたかも「我々は残された。戻ってくるまで動かん」と言わんばかりだったという
さすがに仏間を離れると「気配」元には戻ったが、美枝子さんはその間終始落ち着かなかったという

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家の状態は新築してから経っていなかったため状態は良好だったようだ。
健一さんはざっと見て家を気に入り購入を考えた
しかし美枝子さんは強硬に反対した。内覧の時の一件があったからだ。美枝子さんから話を聴いた中里さん夫妻もまた、難色を示した
健一さんは美枝子さんの話を大幅割引では聞いていたものの、結局健一さん夫妻ははその家は購入しなかった

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その後その家には2家族くらい住んだものの、1年ほどで転居していった
どちらも奥さんがその家に居たがらなかったと噂になった
しばらく空き家になった後、シェアハウスになって現在に至る

と、ここまで書いて思い出したことがある
幼少の頃、建て替え前のその家に遊びに行ったことがあった
その時は仏間が広くとられた間取りであった。さっぱりとした印象を受ける仏壇から「明るい大きな気配」を感じたのだった。
その当時私は「信心のあるお家だから大きくみなぎるものがあるのだろう」と思っていたが……う~~~ん……