よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【こわい話】お願い

父方の祖父が亡くなり、3回忌が過ぎたお盆前のある日のことだった
父方の祖母が仕事場にやって来た
前振り中振り後振りの多い話か。と父も私もうんざりしていたところ、我々にとっては思わぬことを言った
「父さん(=父方祖父)の墓参りに行くとき、酒用意したからあげてくれ」

父は半ば呆れたように尋ねた
「おふくろ、親父に『酒でさんざんな目に遭ったからあげんでいい』って、四十九日の時から言っていたでないか」
祖母は眉を動かすことなく「いや、それがよ……」と語りだした

「父さんが夢枕に出たんだよ。そんでもって、わい(=父方祖母の1人称)に『酒飲ませてくれ』っていうんだよ。まあ、わいも父さんの酒でえらい目に遭ったから『もういい』と思っていたんだよ。でもまあ夢枕に立たれたら、あげんわけにはいかんわなあ」
とぼやくように、自分に言い聞かせるようにいってワンカップを父に差し出したのだった

*

父方祖父は酒は弱くはないが、飲み会の雰囲気が好きで、その場に酔う面もあった。元々気の合う仲間と連れ出ることが好きな人であり、午前様になることもしばしであった。そのため、父方祖母は、父方祖父が飲みに出るのを非常に嫌っていたし、飲酒することそのものも嫌っていた。*1
墓前に酒を供えることすら祖母が嫌がったのは、そういう理由だった
父は「わかった」と言って、祖母よりワンカップを受け取り、後日の墓参りでそれを供えた

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父方祖母は、六曜を盛んに気にしたり、商売のジンクスをないがしろにすることを嫌がるタイプだった
その反面占いやおみくじといったものを信じないリアリストでもあり、くじで「凶」を引いても気にしない面があった
kogetya.hatenablog.com
これ以前、これ以後、見た夢の話を一切することはなかった

*1:もっと言うと、祖父の「気の合う仲間」は男性限定ではなかったこと、飲み会の行き先がスナック率が高かったことも原因である