よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【こわい話】もう、この夢を見ることはない

10代20代の頃はたびたび睡眠中に夢を見ていた。"夢日記"なるものはつけてはいなかったが、それができそうなくらいには鮮明に覚えていたものだ
夢の種類としては、俗に言う"夢占い"の暗示を感じるものもあったし、自分の身の回りの人を勝手気ままに動かすいわば"二次創作"を思わせる夢もある

今では寝付くと夢を覚えることなく目が覚める日が大半だ。ごくまれに夢を見た感覚があっても、明晰に思い出せることは多くなくなった
今回書く夢の話は、久々に明晰に思い出せ、印象に残る夢である

***

なんとなく同窓会のような雰囲気の場にいる。高校の同級生である"彼女"が私のいる席へ訪ねてきた
「"彼"君が、こげ茶さんと2年位前から連絡が取れなくなったと聞いた。今電話をつないでいるから、"彼"君と話してほしい」
なお、"彼"も高校の同級生であり、"彼"と"彼女"は当時交際していたのだった
(話すことはないんだけどな)と思いつつ"彼女"に電話を借りた

「"彼"君、こげ茶です。"彼女"さんから話を聞きました。2年ぐらいぶりくらいですかね。お久しぶりです」
「ああ、久しぶり」

このあたりで夢の中で自分自身の声が響いた
『おお、かれこれ10年くらい前から続いているわ、この夢。なぜか電話のみのやり取りで』
いままで夢の中で、『夢だと自認して冷静に会話する自分自身』が登場したことがないので新鮮な感覚である
私は自分自身に対して、(たぶん年一回くらいで"彼"と会う夢見てたわ)と返答した

私はこの夢の中で、変なごまかしをしたくない気分となった。そこで電話口の"彼"にこういった
「10年くらいやってきたけれど、もう話すこともないしね」
"彼"のほうも
「それもそうだね」と返してきた

"彼女"はそのやり取りを聞いてこう提案した
「せっかくだから"彼"君と会ってみない」
その誘いに乗る理由もあまりなかったのだが、
「ん。じゃ。お願いします」
と答えて"彼"の家に向かった

"彼"の家に行って"彼"と会っても何の感慨もなかった。現実の"彼""彼女"とは同級生としての付き合いはほぼなかったからだ。"彼"の部屋がある2階に上がり、部屋にお邪魔させてもらった。"彼"と"彼女"は他愛ない会話をしていた。おそらく付き合っている2人だからこそできることである。
(自分の学生時代にはなかったことだ)と、窓の外の薄らぼんやり暮れかかる空をぼけっと眺めていたら、再び『夢だと自認して冷静に会話する自分自身』が登場した
『もう、この夢を見ることはないな』
(私も「もう、この夢を見ることはない」を確信できる)
夢はフェードアウトさせず、このまま起きることとした

***

この夢を見たからといって何か変化が起こったわけではない
しいていうなら朝の目覚めはよくなった。気がする
もう少し付け加えるなら、"彼"と"彼女"がほどほどの人生であってほしいと思ったこと
自分は夢を夢として楽しめなくなってきたのだな。と自覚したことである