よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【人間の…】売れた家

これは、人によっては購入を遠慮したい事情がある、ある家が売れてしまった話である
※なお、この話に関するお問い合わせには一切応じません

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ことの起こりはある年の夏に遡る

深夜に高架下で車が炎上しトランクの中から焼死体が発見された。焼死体は車の所有者である若い女性だった
時間帯の問題と人目が届きにくい場所だったことから、目撃者は少なく犯人の特定は難航するかと思われた

が、翌日にあっさりと犯人は捕まった。女性の勤務先で最後に女性と会った客だった

経営者が犯人の人相と名前を良く覚えていたことで早いうちに重要人物として名前が挙がったこと
また犯人は女性のバッグを持ち去っており、質屋に売りさばく際に運転免許証の提示を求められたことが決定打となった
解剖の結果、女性がトランクに閉じ込められた際にはまだ息があった。という話から、運よくトランク内に筆記具があり、犯人の名前を記したメモを残した。という話しすらあった

とにもかくにも事件の陰惨さは、住んでいる地域ではめったにないものである

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事件から5年以上経った頃、私は廃墟探索を趣味としていた
廃墟仲間の一人が同い年で同郷ということもあり、たびたび2人で探索に行くこともあった
ふとしたことから昔の話になり、あの高架下で起こった事件の話となった
仲間:「そういえばあの犯人の家、逮捕されて即売りに出されたけれど、すぐ売れたんだとさ」
自分:「え、たしかあの犯人、結構な奥地で家族に逃げられて1人で住んでたんだよね。・・・・誰が買うのさ」
仲間:「ああいういわくのある家って知ってて買うんだなあ。俺なら買わない」
自分:「知ってて買ったんだよね。私も遠慮する」

この事件で印象的だったのは、事件の陰惨さだけではなく、犯人の住んでいる土地にもあった
この犯人はいわゆる「田舎暮らしにあこがれて移住した人」であったが、その住んでいた土地は辺鄙も辺鄙なところ、新規就農でも選ばないだろうという土地で、なぜここに移住してしまったのだろう?と首をかしげる場所であった*1
犯人が"もともとよそもの"という背景もあり、地元では犯人の事情も面白おかしく報道されていた。こだわった作りを思わせる犯人の家も何度もテレビで写された。そのため隣の人がやむなく購入する以外買い手がつくとは思えなかったのだ
自分:「生きている人間ってこわいよね」
そういってその話は終わった

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このブログ「よどみの置き場」の更新をしようと、ネタの蔵出しをしていると、ふとこの話を思い出した
そこで、Googleストリートビューで当該物件を調べると・・・・現存していた
定住している印象は受けなかったが、別荘として利用されていそうだ。と思った
現在の所有者は、事情を知っていて利用している。と思いたい

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なお、犯人の「その後」のほうがよっぽど背筋が凍る話である

犯行から2年後に地方裁判所で判決が出た。罪状は 放火殺人+窃盗 になったはずだが(自信がない)、懲役15年ほどとなった
検察・被告双方ともに控訴はしなかったと記憶している(自信がない)ので、このまま確定になっているはずである
この判決を見たとき、その場にいた全員が「その程度の罪にしかならないのか」と呟いた

懲役15年ほどでも満期になるまで刑務所にいることはめったにないという
この事件が起きてから15年は軽く経過しているので、この犯人はすでに出所済み。ということになる
・・・・あなたの後ろに、私の後ろに、「奴」はいるのだ

*1:犯人は犯行当時こそ無職だったが、無職になる前は通勤していたらしい……