よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【こわい話】全体リハーサルにて

今回は自分の体験談ではなく人から聞いた話である。

 
この語り手は、私が通っていた高校の合唱部のOGの方である。
同輩の方から「ケーコ」と呼ばれていたので、ケーコさんと呼ぶことにする。

高校の合唱部は、自分たちの代までホールを借りて8月の終わりに定期演奏会を行っていた。
その年の定期演奏会の全体リハーサルも、市民会館のホールを借りて行ったという。
その数日後には本番としてそのホールを使用するのだが……

リハーサルの演目も最後となり、客演指揮者を迎える最後の演目の前に、小休憩をはさむことにした。
その時、隣にいる同じパートの篠崎さんが、半分泣きながら指揮台を指さしこう叫んだ。
「指揮台で男性が指揮棒を振っている……!!!」
「しかもうちらの存在に動じていない……!!!」
この篠崎さんという人、「とてもよく見える人」で部内では有名……
大泣きする篠崎さん。ざわつく一同。

このリハーサルには古株の学生OB(合唱部では学生身分のOBをそう呼んでいた)も参加していた。冷静に篠崎さんから指揮台の上にいる人物の特徴を尋ねる。
パニックに陥りながらも、何とか篠崎さんも答える。
話を聞き終えた学生OBの顔から、血の気が引いていた。
と、ケーコさんは後輩もいいところの私たちに語った・・・・

ケーコさんが高校に入学する5年ほど前。
毎年、定期演奏会で客演指揮者として依頼していた男性が急逝した。
その方も交えて練習に入っていたうえ、その方の名前が入ったポスターもパンフレットも完成していた。
急遽ポスターもパンフレットも作り直し。
篠崎さんが見た男性は、その人に間違いない、とその学生OBは語ったという。

事実この年の定期演奏会のポスターは2種類あり、その両方が音楽室に張り出されていた。
パンフレットも2種類残っており、それから程なく、私も前任客演指揮者のお顔を拝見することとなった。
あの時には前任指揮者が知っている学生はほぼ居なかったろうに、果たせなかった仕事が気がかりであったのだろうか?