よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

噂と情報とクチコミと

今回は番外編扱いで、受験に関する"私にとってはこわくはない話"でもあげてみることとする


私が高校に入学した年の話である。時は1990年代前半となる。ある年長の方から「"私が通っている高校に関する巷に流行っている噂"があるので真相を教えてほしい」を尋ねられた。
この方は普段噂話を好んで行う人ではなく、むしろ怪しげな話を聞いても冷静に判断する方である。そのためよっぽどの事情があるのだろうと判断したうえで話を聞くこととした

話の筋書きはこのような感じである
ある男子中学生がいた。兄弟は地元のあるとある高校へ皆進学していた
男子中学生は兄弟以上に勉強熱心であった。それははた目から見ても過剰と思えるほどであった
寝る間を惜しむほどまで勉強するようになり親が止めるも、彼は勉強を止めなかった
そして兄弟が通っているとある高校の今年の入学試験日、彼は会場に来なかった
周囲は「男子中学生は勉強のし過ぎで心を病んでしまい入院した」と噂している

私はその話を聞いてこのように答えた
「高校に願書を出して受験前に入院した人の噂は聞いたことがないですね。ただ既に第一志望校に受かっていて、当日欠席したという人の話は結構聞いておりますよ」
年長の方が私の回答に納得されたかどうか、表情から伺うことは出来なかった。その話については回答の後に何か質問を受けた記憶はない

入学試験や新卒での就職試験に関して、信憑性はさておいて噂は常に付いて回るものである。こういう内容の噂が繰り返されるのは、出所が特定されにくく、「事実がないこと」の証明が難しいことがあげられる
しかしこの年の某高校に関するこの噂に関しては、事実確認が行いやすかったため割と簡単に否定できたのである
その理由は全く笑えない。この年の某高校は不合格者が非常に少なかった。そのうえ不合格者の身元がかなり早い段階で割られてしまっていたのである。そのうえ受験当日の欠席者も試験当日にほぼ、欠席理由を含め把握されていたのである

1990年代前半において個人情報保護という概念はまだ薄かった。そのため塾や家庭教師会社は、自社で抱え込んでいる生徒より名簿やクチコミを入手して、かつ、生徒に得られた情報を還元していた。また某高校の受験に関しては、受験者のうち9割が数社の塾に通学している状態であった。残りの1割も生徒からの情報提供で学校での成績は塾側に把握されていた*1
また塾で得た情報は、口が軽い生徒により学校内で広まってしまうことも多かった。結果として塾通いをしなかった私ですら"他校の成績の良い人のフルネームを知っている"状態になっていた。クチコミ、恐るべし

ある年長の方が聞いてしまった噂については、まったくのガセネタか元となった事実があったのまでかは調べなかったが、信憑性が薄いと判断できた。内容の後味の悪さはともかくとして
そうはいっても、この年の受験に関する情報を得られない人にとっては「大変恐ろしい噂」には違いない。救いがない結末だからだ。そしてこのような噂が巷で出回って、都度関係者が否定する羽目になる、噂話の伝播の早さにおもわず閉口するのである

*1:私は1割の側であったが、塾からのダイレクトメールには、学力が同程度の同級生が在籍するのコースのテスト案内が届いていた