よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【人間の…】うわさが消えるとき

"うわさ"というものはいつの間にか始まり、気が付いた時には終わっている……と感じるものである。実際には自分が把握していないところで流布していたとしても。
私の半生の中で、それでも一度だけ、うわさの最期を見届けたかもしれない話がある

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私が通っていた小学校は、私が入学する前の年から建て替えが始まった。入学したときにはまだ建設中の校舎は完成していなかった。開校の頃から児童数の増加のたびに、建て増ししたという校舎は入学したばかりの時には迷路というほかなかった。
1年生の2学期が始まった時に校舎の第1期工事が終了した。けれども新校舎を使うのは4~6年生。1~3年生は依然旧校舎と呼ばれるようになった木造校舎を使用した。

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その頃からだろうか、「この小学校は墓地を取り壊して旧校舎が建てられた」という噂が広まったのは。上のきょうだいからとか、同級生という情報源があたまにそえられていた。
実際は農地だったところを宅地開発する際に、小学校用敷地を確保していたというのが真相ではあるが、いちど出たうわさはなかなか収まらず。
1年、2年、3・4年時のそれぞれの担任は時を見てはこのうわさを否定していた

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私が3年生の2学期に校舎の2期工事が完了した。これで全学年が新校舎に移ることとなった。
このころからだろうか、「この小学校は墓地を取り壊して旧校舎が建てられた」といううわさが聞かれなくなったのは。この年入学した1年生はクラス数の都合で入学当初から新校舎で授業を受けていた。真新しい校舎におどろおどろしい話は説得力がなかったのだろう。

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私が小学校を卒業したのち妹が入学した。
妹も小学校を卒業して久しくなってから、ふと、小学校時代に耳にした"うわさ"のことを思い出した。
妹に「こういう"うわさ"を聞いたとこがあるか」と、例の「この小学校は墓地を取り壊して旧校舎が建てられた」という話をした。
妹は一言「聞いたこともない」と返した。
このとき、「あのうわさは消えたんだ」と感慨にふけった