よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【こわい話】人形レストラン

その昔地元に人形のコレクターがいた。その人はコレクションの展示を兼ねてレストランも経営していた
既に閉店して久しいが、ふと思い出したことがあって今回書くこととする


世の中に人形愛好家、ドール愛好家、フィギュア愛好家と言われる人は少なくはない。それでも人形全般なら何でも好き。と言う人はめったに聞かない
この話に出てくる人形コレクターはどの人形を問わず愛していたようだ。以下の文ではこの人のことを「オーナー」と呼ぶこととする。実際レストランのオーナーだったしね

「オーナー」はコレクターであったが、自分で人形を買い求めるタイプの人ではなかった。持ち主がいなくなった、あるいは、持ち主が手放すこととなった人形を譲り受けるタイプの人であった
またオーナーは、そのコレクションをしまっておく人ではなかった。新たなコレクションを入手したら定期的に入れ替えていた
なぜ私が知っているかと言うと、オーナーは気さくに取材に応じる人であったからである。人形のコレクターとしても、レストランの経営者としても、営業時にはたびたび地元新聞やタウン誌、テレビの取材に応じていてよく目にしたからである

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私は一度だけこのお店に行きかけたことがある。高校生の時だ
伯父(母の兄)が美味しいレストランを知っているというので連れて行ってくれることになった。ちゃっかり者の母・私・妹は伯父の車に乗り、そのお店に向かった。が、肝心のレストランは見つからない。畑の真ん中にあるというレストランであるが、北海道の畑地とはいえ、一本道を間違うとたどり着けないのはよくある話である
あきらめて戻ろうとしたときに丁度ログハウス風のお店が見つかった。この人形レストランである
私と母はこのお店を知っていて興味があった。妹はお腹がすいていたのでここでいい、と言った。だが伯父は大の人形嫌いで怖がりであった。母と私よりどういうお店か聞かされた後、震えだして却下。さっさと車を発進させた。(なおご飯は別のお店で食べた)

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お店自体は順調な経営であったようだが、オーナーが病気となってしまった
そのためお店を閉店して、オーナーは故郷である南欧*1に帰ることにした。コレクションはあまりの多さに持っていけないため泣く泣く大半を処分することとした
この時私は20代半ばに差し掛かろうとしていたから、かなりの営業手腕であるというよう
雰囲気のいい建物も合わせて取り壊されることとなり、色々と惜しまれての閉店となった

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最初にこのレストランにまつわるこわい話を持ってきたのは伯母(母の姉)だった
なんでも知り合いの人がこのレストランの解体工事を行ったらしい
「屋根の解体をしようとしたら、普段は慎重な職人さんが転落して怪我したってさ。おっかないよねえ」
「若い職人さんが横を通ることすら嫌がった部屋があったってさ。家の人は告げていなかったけれど、そこに展示前の人形が置いてあったってさ」
オカルト大好きな母も私も押し黙ってしまった

次にこのレストランにまつわるこわい話を聞いたのは、当時行きつけのカフェだった
そこのマスターと話しているとたまたまそのレストランの話題となった
「あそこのオーナーさん、人形を処分したとたんに体調が悪かったのが一気に回復したみたいだね。ひどいものだね」
オカルト大好きな私は次の言葉が出てこなかった

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途中経過はともかくとして、オーナー(とその家族)は見事にすべてを終えてこちらを離れた。「立つ鳥跡を濁さず」とはまさにこのことである
オカルト的には「あの人形の中に曰く付きが・・・・」なのだろうが、すべて首尾よく終えられたことを鑑みると「それはないなあ」というのが今の感想である。大体人間に災いなしたところで自体が処分されるか、よくてお祓いされるかだろう。そもそもオーナーは病気になったが、お店の経営は順調だったようなのだ。曰く付きなら店にも悪評が付いて経営がうまくいったとは思えない
オーナー一家が現在も幸福であると思いたいものである

余談として、伯父が行く予定だったレストランも5年ほど前まで営業していた。なお、営業時間が短いレストランであり、出発した段階で営業時間に間に合わないことはずっと後で知った

*1:イタリアだったかな。さすがに覚えていない