よどみの置き場

怪談……とは限らないこわい話の置き場です。

【人間の…】棺桶のはなし

これは高校時代、私が教わった体育の先生、M先生から聞いた話である
私が高校生だった20年以上前、M先生は定年を間近に控えておられた
話はM先生のお父さんが体験した。という前置きがなされた

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M先生のお父さんが若いころ、近所で葬儀を出すことになった
その為、近隣の若い衆がその家に呼ばれた
既に棺、いや、人が胡坐をかけばちょうどいい大きさの桶が用意されていた
今の棺は仰臥するタイプがメイン、むしろそれ以外ない。ただしその物を指して"棺桶"ということ言葉は残っている。その当時は文字通りに桶型の棺だったのだ
家主なのか若者の束ね役なのかは不明だが、とにかく誰かが若い衆にこう告げた
「棺桶に仏さんを入れる前に、仏さんの主だった関節を外しておくように」

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M先生は、なぜ関節を外すよう先方が告げたかを、生徒達へこう説明した
桶型の棺に入れる際、きちんと関節を外しておかないとならない。さもないと、死後硬直が起こった際に桶から仏さんが飛び出してしまい、そこから再び桶に入れるには困難を極める。と
そして、こうも付け加えた
人間の関節はたやすく外れないようにできている。亡くなっているとはいえ、大人の関節を外すには何人もの力のある人間が必要である。と

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どうやらこのとき集まった若い衆は、全員が葬儀に携わるのが初めてだったようだ
おまけになぜ、そうしなければならないか問う者もいなかった
何よりも若者にとっては葬儀に駆り出されることそのものが"面倒くさいこと"だったのだろう
誰からということはなく「関節外すのは面倒だから、そのまま入れてしまおう」という話になり、仏さんを座禅を組む形で棺桶に収めてしまった

ことはうまく運んだかように思えた
が、葬儀で僧侶が読経しているさなかそれは起こった
棺桶にいた仏さんが棺桶の蓋を破り会場に飛び出したのだ!
予想していなかった出来事に、葬儀は一時中断になったという……

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M先生の話はここまでである

その後どうなったかは語られなかったが、前述のM先生の説明を考えると、再び若い衆が呼ばれえらい目に遭ったのだろうことは想像するに難くない
M先生のお父さんはそれで目にあったからこそ、子であるM先生にその時のことを語り継いだとも考えられる

今では桶型の棺に亡くなった人を納めるケースはまずないと思われる
なので、よほどの事情がない限りは関節を外すことはない・・・・と思う

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この話を聞いた高校生の時に私は、面倒くさがりの若者たちの手抜きに対する戒め。という受止めをしていた
ただ、20年以上経ってこの話をふと思い出したとき、別の側面を感じている。以下に示してこの文を〆ることとする

  • そもそも、若い衆を呼んでおいて、葬儀の手はずを教える先人を呼ばなかったのはなぜだろう
  • 慣習や慣例やマナーを説明できない大人は少なくないが、聞くべき機会ってあるようでないものかもなあ
  • 若い衆からすると、自分の身内ではない葬儀って"面倒くさい"よな。それは昔も今も変わらないよな
  • 結構このような手抜き?が横行して怪談のもとになっているのかねえ