【こわい話】嵐の夜に
これは母から聞いた話である
母の祖母、つまり私の曾祖母は漁港の生まれだったという。
そういうところに住んでいると、「嵐が来る」というのは風の向きや雲の動きで前の日から察知するのだという。
そうすると港の人が総出で船を陸に揚げ、雨戸をぴっちり占めて、ただおとなしく嵐が通り過ぎるのを待つのだという。
明治の中頃だとこれ以上の防災は存在しなかったのだ。
一族が雨戸をぴっちり閉めている部屋で身を寄せ合っている。
と、曾祖母は必ずと言っていいほど風に乗ったあり得ない言葉を聞いたという
「面舵一杯……」
しかし嵐が過ぎた後、港にて船が遭難したという話は聞いたことがないそうだ。
この曾祖母私が生まれたときには他界していたが、この人は波乱万丈を精一杯生きたと言っていいエピソードの持ち主である。その話はまたいずれ。